エネルギー設備、化学プラントといった各種産業機械は、より高負荷条件での操業が求められつつあります。このような背景において、特に長寿命化、維持管理の軽減といった観点から、耐高温腐食特性を付与できる皮膜形成(コーティング)技術の採用が有効解のひとつとなるでしょう。
中でも、金属/合金、サーメット、セラミックスなど幅広い材料を選択でき、ニーズに合わせた皮膜設計が可能な「溶射加工」が注目されており、世界各国における製造分野で幅広く使用されています。
溶射加工では、基材や環境に適した材料を使うことにより、耐食性を付与することが可能です。これを、防食溶射と呼びます。防食溶射に使われる溶射材料は、亜鉛、アルミニウム、亜鉛・アルミニウム合金、アルミニウム・マグネシウム合金、アルミニウム・マグネシウム合金など。鉄よりも卑な金属が選ばれるのが特徴です。これらの金属を溶融、微細化して吹き付けることにより、耐食性の高い皮膜を形成していきます。
防食溶射では亜鉛がよく使われますが、亜鉛溶射は大気中、アルミニウム溶射は大気・水溶中の両方で使用できるのが特徴。亜鉛・アルミニウム合金溶射は、先述の2つの長所を活かすために開発されました。以下に、耐食性を高めるための溶射材料と、皮膜の特徴について解説します。
正常な領域での大気中で、物質表面に緻密な腐食生成物を形成。高い耐久性を示します。ただし、pH6.5以下およびpH12.5以上の水・水溶液、50℃以上の液温での使用は推奨されていません。
電気化学的防食作用は亜鉛よりも低いですが、酸化被膜が安定しているのが特徴。pH4以下、pH8.5以上の水中での使用は推奨されていません。
優れた電気科学的防食作用を持つ亜鉛皮膜、高い環境遮断作用を持つアルミニウム皮膜、2つの特徴を併せ持っています。
単体のアルミニウムや亜鉛、亜鉛アルミニウム合金よりも高い耐食性を示します。防波堤や橋など、鉄骨でできた海洋構造物の防食に強みがあります。
耐食性をアップさせるための溶射加工には、以下のような方法が用いられます。
主に耐摩耗性を高めるために用いられる方法ですが、耐食・耐熱といった付加価値も期待できます。基材と性質が似た材料を使用しても耐食性は高められないため、ステンレス鋼・炭素鋼・合金など、耐食性に優れた材料を目的に合わせて選択します。同時に、腐食によって破壊された部分の修復も可能です。
自溶合金溶射とは、金属系溶射のひとつです。フレーム溶射を行った後にフュージング(再溶融処理)を行うことで、基材と材料の密着性がアップ。気孔がほとんどない緻密な皮膜を形成できるため、耐食性を付与する目的としても使用されます。用いられる溶射材料は、ニッケル基・コバルト基・ニッケルクローム基など。これらの合金に、硬度の高い炭化タングステンを配合したものが使われることもあります。
プラズマ溶射やガスフレーム溶射などで、セラミック系溶射材料を溶融または半溶融状態にして吹き付ける方法です。セラミック系溶射材料は、耐食性はもちろん耐熱性や硬度にも優れているのが特徴。化学・電気的にもさまざまな特性を持つことから、多種多様な分野で用いられています。
溶射ガンの燃焼エネルギーを高圧にすることで音速以上の噴流を作り、高温で溶融または半溶融状態となった材料を連続噴射します。高速フレーム溶射で用いられる材料は、耐食性を高めたステンレス鋼材SUS316、耐食性・耐焼付き耐性を付与できるアルミ青銅、耐食・耐磨耗性を転嫁するアモルファス合金など。ボイラー部品・ポンプ部品・スクリュー・プランジャー・キャプスタンローラーといった機械部品に使用されています。
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